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雨が上がっていた。雲の切れ間から覚めるような青空が覗いていた。 「イルカ先生。」 呼ばれて振り向くと、そこにカカシ先生がいた。あれ、気配がまるでなかった。もしかして瞬身でも使って来たのかな?何か急ぎの用事でもあったのだろうか? 「カカシ先生?」 カカシ先生は俺を呼び止めたっきり、無言で突っ立っている。何か用事があるのかな?人通りのあるこの場所では話し辛いことなのかもしれない。 「あの、よかったらお茶の一杯でもどうですか?俺の家、すぐそこですし。」 「いただきます。」 即答されて俺は少し意外に思った。普段のカカシ先生だったら少し逡巡するだろうなと思っていたから。 「ではどうぞ。そう言えばそろそろ昼飯時ですね。簡単なものでよければ何か作りますよ。食べていかれますか?」 共に歩きながら言うと、カカシ先生はまたもやいただきます、と即答した。今度はやけに力の籠もった言い方だった。そんなに腹が減ってたのかな。確かにこの所、片付け作業やら何やらでほとんど休みなんかなかった。俺も疲れ気味だった。カカシ先生も疲れていたのかもしれないな。 「えーと、風呂、入っていかれます?」 「いえ、そこまで濡れてはいませんから。」 確かに俺もカカシ先生も肩は濡れていたが体全体が濡れているわけではない。風邪を引くような気温でもなかった。 「では早速飯の準備しますから、カカシ先生は座って待っててください。お茶はほうじ茶でいいですか?」 「はい。」 カカシ先生は卓袱台の前に座って相変わらず頭を拭いている。そう言えばカカシ先生を家の中に入れるのはこれで2回目だな。この間は俺、狸寝入りしてたけど。 「簡単なものですみません、カカシ先生は焼きそば、好きですか?あと卵スープもありますから、今持ってきますね。」 俺は皿を置くとスープを取りに台所へと戻った。そして二人分のスープをよそうとカカシ先生と自分の分を卓袱台に置いた。 「さ、食べましょうか。」 俺はいただきますっ、と力強く両手を合わせて箸を手に持った。 「あの、もしかしておいしくなかったですか?」 俺は恐る恐る聞いた。が、カカシ先生は首を横に振って焼きそばを口に入れていく。卵スープを飲んで、そして切なげに笑って言った。 「普通の卵スープじゃないですね。とても美味しいです。」 言われて俺は満面の笑みを浮かべた。そうでしょう、これ、自分でも結構自信あるんですよ。改良に改良を重ねて、いつも美味しいって言ってくれて、 「イルカ先生?どうかしましたか。」 言われて俺ははっとした。 「ご飯、おいしかったです。ありがとうございました。」 カカシ先生は自分の分を綺麗に平らげてくれたようだ。よかった。ちゃんとおいしく作れたようだ。 「おそまつさまです。」 俺も自分の分をさっさと食べると、茶碗を流しへと持っていった。そして洗うために腕まくりをする。 「イルカ先生。」 真後ろから声がして俺は慌てて振り返った。さっきまで卓袱台の前に座っていたはずのカカシ先生がすぐ側に立っていた。 「あ、もしかして片付けを手伝いたいとかですか?そんなに茶碗の量もないですし、大丈夫ですよ。カカシ先生はゆっくり休んでいてください。食後に何か果物でも切りましょうか?この間近所の人からオレンジを頂きまして、カカシ先生、柑橘系は好きですか?」 しかしカカシ先生はそこに立っているままで何も話さない。どうしたんだろう?何か、そうだ、確か道の往来で呼び止められたんだ、何か話したいことがあったに違いない。俺ばっかり話してしまって、なんだか申し訳なくなってくる。 「正直、今でも俺はどちらがいいのか分からない。けれど、忍びとして俺は、いつ死ぬか分からない。」 俺はツキン、と胸に棘が刺さったような感触がした。忍びたるもの、いつでも死の影はつきまとってくる。今回の木の葉崩しの時だって、カカシ先生は闘っていたのだろう、もしかしたら命を落としていたかもしれない。里の誉れと言われるこの人も、いずれは死んでしまうのだから。 「だから、自分の気持ちに正直に生きようと、そう思ったんです。」 俺は俯いてしまった。こんなにカカシ先生に思ってもらっている人物が羨ましい。いや、もっとどす黒い感情だ。俺はその人と会ったらきっと睨み付けてしまう。憎んでしまう。 「思われている人が、羨ましいです。カカシ先生は、本当に素敵な人ですから。も、もう告白はされたんですか?うかうかしてると、誰かに盗られちゃいますよ?」 視線を合わせないままにそう言えば、カカシ先生は強引に俺の両肩を掴んだ。 「抱きしめていいですか?」 言われて俺はぱちくりと目を瞬かせた。 どうして俺を抱きしめるんだ?この展開で俺を抱きしめる理由なんてないのでは?と疑問符が頭に浮かぶる。 「どうして、カカシ先生。だって、あなたの好きな人は俺ではないでしょう?」 顔を上げてカカシ先生を見上げると、カカシ先生は顔を歪ませて苦悩している様子がありありと見て取れた。 「分からないんです。俺は、どうすればいいのか分からない。でも、このままでは嫌なんです。いつの日にか、ただの元生徒の担任と上司なんて言う今のままの関係で、俺が死んでしまった時、あなたは俺のことをただのナルトたちの上忍師という位置づけでしか認識しないでしょう?それだけの存在のままの記憶しか残らないなんて、そうなってしまうのが嫌なんです。ねえ、イルカ先生、あなたは少しでも俺のことが好きですか?特別だと言える程に俺を好いてくれてますか?」 そんなの、そんなの当たり前だ。カカシ先生が好きなんだ。ずっとずっとあなたの側にいたいと思ってしまうんだ。そんなのに理由なんかない。俺は、ただ、あなたのにことが、たった一人、あなただけが。 |